今日は都営新宿線「曙橋」にある新宿歴史博物館に行ってきました。うだる暑さの中、駅から歩いて約10分、冷たさを失い既にお荷物になってしまった缶コーヒーを飲み干し、急いで館内に入ります。
『歴史博物館』という名前から荘厳なつくりを想定していましたが、意外にも建物はガラス張りです。展示室のある地下1階に降りる階段からは手入れの行き届いた庭も臨めます。
展示室
新宿での人々の生活は旧石器時代から始まります。個人的には縄文人のイラストがどことなく俳優の船越英一郎さんに似ており、まじまじと見つめてしまいました(笑)
そのすぐそばには江戸時代の子どもが使っていた小さなおもちゃが並べられていますが、添えられた説明書きの「お墓から出土」には思わずはっとさせられるものがあります。生まれ年だけならその子どもは私たちよりも遥かに年上なのに、彼女はこれからもずっと5歳のままです。
館内にはいくつか撮影許可の下りているスポットもあります。
江戸時代、内藤という殿様がこの地を治め、甲州街道に新しく作られた宿場町であったことから1698年に「内藤新宿」と名付けられました。内藤家のお墓がある「太宋寺」は今も新宿通りの裏に立っており、この復元模型は現在の伊勢丹周辺を指しています。
四谷にあった荒井谷(菓子屋)。火事が多かった江戸では「蔵造り」という壁が厚く、銅の板で覆う建築方法を用いて、火が燃え移るのを防いでいたそうです。
荒井谷で実際に使われていた鬼瓦。
鬼瓦にもいろいろあるんですね。今までオードリー・春日さんのものしか知りませんでした!
時代は江戸(近世)から明治大正昭和(近現代)へと進みます。展示されているこちらの電車には実際に乗車することが可能です。近年はバリアフリーデザインのものが増えており、それが当たり前のように暮らしていますが、この電車の段差を上ってみるとその重要性がわかります。当時はまだ和服の人も多かったでしょうから、年齢に関わらず使いづらさはあったかもしれません。
あまりにちゃちな作りで少々不安になるハンドル
撮影こそ叶いませんでしたが、この時代に新宿を舞台に活動していた文学者たちの原稿も展示されています。特に夏目漱石は新宿で生まれ育ち(二丁目付近)、毎週木曜日には弟子たちを自宅に呼び議論を交わす「木曜会」という場を設けていました。
今では影響を受けることはあっても、「○○に師事する」作家というのはあまり耳にしなくなっているので羨ましい限りです。漱石を溺愛していた内田百閒は、漱石の鼻毛を集めていたという逸話もあるほどですが、いくらなんでもいらなくないですか?私は村上春樹さんを敬愛していますが欲しいと思ったことは一度もありませんし、何より村上さんも嫌がると思います。
また小泉八雲は、『古き良き日本を愛し、失われつつあった日本の文化を広く西洋に紹介』した人物ですが、この時代において『失われつつある』と考えていたなんて、さすが帰化しただけありますね。もし映画「帰って来たヒトラー」のように現代日本に彼が現れたりしたら、どのように感じ、どのように振る舞うのでしょうか。
明治以降、八雲の思いとは裏腹に外国文化がどんどん「一般市民」の中に浸透していきます。
復元された文化住宅、金子さんの家の前には七夕の飾りつけがされていました。この家の子どもたちは相反する願いを抱えているようで不穏な気持ちになります。
けんかが強くなりますように
せんそうがなくなりますように
金子家の台所にはガスや水道が引かれています。今日の夕飯は素麺でも作るのでしょうか、七夕ですし。
うなぎでした。部屋の中までは入れなかったため遠目で確認したところ、うな丼と蛤のお吸い物、きゅうり、白菜の漬物が今日の夕飯のようです。初めに「一般市民」と言いましたが、この家はかなりのお金ちだと思います。
金子さんが裕福であることが決定的になった応接間です。蓄音機からはサラサーテの「ツィゴルネルワイゼン」とベートーベンの「ロマンス第2番」が流れます。どちらも一度は耳にしたことがある名曲ですが、当時の『一般市民』がこの2曲を耳にする機会に恵まれていたか?という疑問がどうしても尾を引きます。ただ近頃、関ジャニ∞に心酔し、脳みそがつるつるになりかけていた私は、思いがけない場所で滋養を受け取ることになりました。
新宿は昔から人々にとって魅惑の土地です。主婦や有閑マダムは新しいお化粧品と食事を堪能し、サラリーマンは綺麗な踊り子に高揚しては安酒を引っ掛け、学生は映画を観に集まります。伊勢丹や中村屋、紀伊国屋書店は昭和初期には既になくてはならないものでした。
確かに新宿は遊ぶには人が多すぎて、お金もかかりすぎる街かもしれません。しかしそれは今に始まったことではなく、何百年も前から続いていたもので、それも一度は戦争によって全て失われた経験の上に立っています。
歴史博物館は一般的な新宿からイメージされる繁華街からは、少し離れた場所にあります。歴史への関心という本来の動機にはもちろんですが、新宿に苦手意識がある方にもおすすめの施設です。企画展示も随時更新されており、入館料は300円とたいへんお手頃です。ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。
(文:YOKOSO新宿編集部 ひしもとなつ)
基本情報
施設名 | 新宿歴史博物館 |
住所 | 〒160-0008 東京都新宿区三栄町22 |
TEL | 03-3359-2131 |
営業時間 | 9:30~17:30 (入館は17:00まで) |
定休日 | 第2・4月曜日 (祝日の場合は翌日) 全館燻蒸作業日(12月) 年末年始(12/29~1/3 |
アクセス | 「四ツ谷」駅(出口2)から徒歩10分 「四谷 三丁目」駅(出口4)から徒歩8分 「曙橋」駅(A4口)から徒歩8分 |