身体的なストロークから描く行為自体を追体験させるような作品に取り組む新井碧が、本展のために作品制作と言葉との関係性を再考するとともに、新宿という多様性の街を紐解き描き下ろした新作を展示します。
会期:2024年12月12日(木)―2025年3月19日(水)
時間:11:00-21:00
入場:無料・予約不要
会場:WALL_shinjuku(ルミネ新宿 ルミネ2‐2F)
HP URL: https://avex.jp/wall/exhibition/438
企画:MEET YOUR ART
主催:ルミネ新宿/MEET YOUR ART
新井碧個展「ボーダー・ストローク」
わたしが絵を描くと浮かび上がる形態は、あるときは植物のようであったり、あるときは人体のようであったり、はたまた動物のようであったり、とにかく有機的である。揺れ動く、移りゆく瞬間の痕跡としての絵画を標榜するわたしは、絵に要請されるままに筆を動かす。完成するときまで、そのシルエットが何であるかはわからない。なにかになってもいいし、なににもならなくてもいいし、なにかになりかけている状態でもいい。
その時間は、ことばやかたちになる手前のもの、名付けられたり分類される前の、曖昧模糊とした漠然そのものを探るような行為に近い。そんな制作のさなか、最近読んだ書籍の一節が思い浮かぶ。
”人は自分があらかじめ何者かで、対象があらかじめ何者かで在るから、愛するのではない。愛は自我形成と対象形成の同時進行性につけられた名称である。”(1)
自己と他者とのあいだ。その距離や温度などについて、認識の手前の境界を探るようにブラッシュストロークを重ねる。思うに、愛というものは状態であり、安易に指し示せるものでもなく、常に形や色を変え続ける流動性を帯び、また他者に寄せては返ってくる波のような、そのあたたかさそのもののことなのではないだろうか。
アイデンティティと呼ばれる、自己への認識というものもまた、愛と似ているように思う。それもまた状態であり、安易に指し示せるものでもなく、常に形や色を変え続け流動的で、ただ一点、愛のようにトレードすることはできず、自己に帰結していく。
どうしたって変えられない、変えられたくない、自分が大事にしたいもの。苦痛の伴う鋳型を正当に拒み、「ただこのように存在し続けていきたい」という未来に対しての眼差しそのものが自己への尊厳であり、誇りなのではないだろうか。
画面上に浮かび上がる形態は、重なっては消え、再び立ち表れるなどを繰り返し、揺らぎ移ろい続ける。そうやってわたしは作品を完成へと向かわせると同時に、世界に対して自己を記述していく。
新井碧
新井碧プロフィール
1992年茨城県生まれ。 2015年東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻卒業、 2022年京都芸術大学修士課程芸術研究科美術工芸領域油画専攻修了。
無意識的な動作の痕跡に、身体の有限性を備える。 鑑賞者に「描く行為」自体を身体的に想像・追体験させ、 共生の時代であるからこそ、生命と時間の在り方について問う。
https://www.instagram.com/midoriarai_/
(YOKOSO新宿編集部)